はばタンPay+情報漏洩問題で斎藤知事が委託業者名を公表 ──「説明責任」か「責任転嫁」か?

2025年10月、兵庫県のプレミアム付きデジタル商品券「はばタンPay+」の申し込みシステムで、他人の個人情報が閲覧できる不具合が発生しました。
問題のシステムは一時停止されましたが、原因はすでに特定され、システム改修が完了。10月29日には申し込みが再開されています(出典:神戸新聞2025年10月29日付)。

ところが、同日の記者会見で斎藤元彦知事は、委託先として

  • 株式会社日本旅行 神戸支店
  • 株式会社神戸デジタル・ラボ
    の2社を名指しで公表しました。

すでに復旧済みの段階での「委託業者名」公表

通常、行政が委託業者名を明かすのは、

  • 被害が拡大している最中、または
  • 調査中で原因が未特定の場合、
    に限られるのが一般的です。

すでに問題が解消し、再開に至っている段階での「業者名の公表」は、
県民の安心よりも「責任を誰に押し付けるのか」という印象を与える結果になりました。

県地域経済課によると、誤って二重登録した人が一時、正常に手続きした別の申請者の個人情報を見られる状態になった。誤登録の情報と正常な登録情報との2種類のサーバー間で連携に不具合が生じたことが原因で、誤登録専用のサーバーを削除して安全性を確認できたため再開を決めた。

https://kobe-np.co.jp/news/society/202510/0019637749.shtml(出典:神戸新聞)

行政が業者名を公表する合理的な場合とは

行政が業者名を明示してよいのは、次のようなケースに限定されます。

  1. 委託業者が報告義務を怠り、被害を拡大させた場合
  2. 契約上の瑕疵担保責任を履行せず、改善対応を拒否した場合
  3. 県民への被害防止・再発防止の観点から、公表の公益性が高い場合

今回のように、

  • 問題がすでに解決済み
  • 業者が誠実に対応している
  • 契約違反の事実が確認されていない
    という状況では、公表の公益性は乏しく、むしろ不当な信用毀損の恐れが生じます。

誠実対応した業者を名指しするリスク

委託先である「神戸デジタル・ラボ」は、県内で長年公共DX案件を担ってきた企業であり、
「日本旅行 神戸支店」も地域振興事業で多数の実績があります。

これらの企業が迅速に原因を特定し、修正を完了させているのに、
知事が「不具合を起こした業者」として名指ししたことは、
企業の信用を損ねる行為にあたる可能性があります。

特に、公的発言で特定企業名を挙げた場合、
その影響力は非常に大きく、
今後の入札・取引にも不当な影響を与えかねません。

守秘義務・契約上の問題点

行政と民間業者の委託契約では、多くの場合、「契約内容・再委託先などを第三者に開示しない」という守秘義務条項が含まれています。

知事が企業の同意なしに公表した場合、
形式的には契約違反に当たらなくても、
**信義則上の逸脱(不誠実な行為)**として問題視される余地があります。

知事の発言に透ける「責任転嫁」の構図

このタイミングでの業者名公表には、
「情報漏洩の責任は業者側にある」という印象を作りたい意図が見え隠れします。

しかし、地方自治法上、最終責任は発注者である兵庫県と知事にあります。
業者を名指しすることで、自身や県庁の監督責任を軽く見せる行為は、行政倫理の観点からも問題です。

行政倫理と公平性の観点からの検証

行政が自らの責任を回避するために特定企業を公に晒す行為は、「誠実に対応した業者ほど損をする」悪しき前例を作ります。

結果として、将来、県が委託する企業が「情報が漏れたら名前を出されるリスク」を恐れ、入札や受託を敬遠する恐れも生じます。

これは、県のデジタル行政そのものの信頼を損なう行為です。

SNSで始まった「企業攻撃」──政治的レッテル貼り

このように、企業や元代表の政治的立場を根拠に“陰謀”と断定する投稿が出始めています。
これは完全に事実を逸脱した憶測であり、法人・個人双方への名誉毀損・信用毀損(刑法230条・民法709条) に該当するおそれがあります。

「事実を述べているだけ」では免責されない

SNS上ではよく「事実を述べているだけ」との弁明がなされますが、それが社会的評価を下げる目的や文脈で使われている場合、名誉毀損の成立を免れません。

「A社の元代表が特定の投稿をリポストしていた」
「だから反知事派による破壊工作だ」

このような“事実+推測+断定”の構成は典型的な誹謗表現です。
公表された企業名が政治的攻撃の材料にされている点で、今回のSNS投稿群は二次被害の典型です。

県の公表が誘発した「副作用」

知事が企業名を明示したことで、一般市民が「誰が悪いのか」を短絡的に想定しやすくなりました。
その結果、SNS上では「陰謀論」や「反知事派攻撃」が広がっています。

行政が本来すべきは、

  • 原因究明と再発防止策の説明
  • 契約管理の再点検
    であり、特定企業を“責任者”扱いすることではありません。

今回の混乱は、知事による不適切な情報発信が招いた副次的被害と言えます。

まとめ──「説明責任」と「責任押し付け」は紙一重

行政には、県民に対して説明する義務があります。
しかし、「説明責任」と「責任転嫁」はまったく異なります。

すでに誠実な対応を終えた企業を名指しした今回の発言は、透明性を装いながら、実際には自らの責任を外へ押し付ける行為であると多くの県民が感じています。

真に説明責任を果たすなら、
業者名ではなく、

  • なぜ監督体制で防げなかったのか
  • 今後の再発防止策は何か
    を明確に語るべきだったでしょう。