関西学院大学で起きた“知事講義招致問題”の本質― 官僚ネットワークと大学ガバナンスの衝突が生んだ深刻な構造問題

2025年11月26日

2025年11月、関西学院大学法学部の講義「地域政策論1」に、兵庫県の斎藤元彦知事が“ゲストスピーカー”として招かれた。
しかし、授業実施を前に、**法学部長の伊勢田道仁氏(本物)**がXに極めて異例の内容を投稿し、大きな波紋を呼んでいます。

この記事では、伊勢田氏の投稿 → 背景 → 官僚ネットワーク → 総務省の中立性問題 → 選挙制度の観点からの問題点までを体系的に整理し、この問題の本質を解説します。

伊勢田法学部長の問題提起

伊勢田氏の主張は簡潔に言うと次の3点です。

① 法学部としては“招待の機関決定をしていない”

大学組織として、知事を講師として招いた事実はない。

② 知事を呼んだのは「総務省から来ている任期付き教授」個人の判断

無報酬ゲスト扱いのため、教授会承認・事前届出が不要。
つまり 大学組織ではなく個人の裁量

③ デモ隊来場の危険性を考慮し“リモート実施”を提案したが、教授に拒絶された

学生・キャンパスの安全を守るための判断だったが、教授側は「従う義務があるのですか」と突き返した。

伊勢田氏は投稿の最後に

「関学が政治利用されるのは不愉快」
と述べ、深刻な危機感を示しました。

知事側の発言との“齟齬”

一方で斎藤知事は記者会見で、次のように述べました。

「関西学院大学のご意向があり、出席依頼を受けた」

この表現は、あたかも大学の公式依頼・正式招待であるかのように聞こえます。

しかし実際は

  • 大学の機関決定なし
  • 教授個人の招へい
  • 大学が招いたように受け取られる表現

というギャップがあり、大学側の不信感を強める結果となりました。

問題の核心:“大学ブランド<官僚ネットワーク” が優先された

知事を呼んだ教授は総務省(国家Ⅰ種)2006年入省 → 2023年から関学法学部に出向中

そして斎藤知事は、総務省2002年入省(先輩)。

霞ヶ関の文化では、**縦の関係(先輩・後輩)**が極めて強い。

そのため今回の講義招致は

大学の教育的妥当性でもなく、大学ブランドでもなく、
官僚コミュニティの「義理」で決まった可能性が極めて高い。

伊勢田法学部長が不快感を示したのは、まさに大学ガバナンスの上を“霞ヶ関人脈”が通り越した構図です。

さらに重大な事実:担当教授は「兵庫県明るい選挙推進協議会」の委員

ここから話は一気に深刻になります。

明るい選挙推進協議会は

  • 選挙の公正
  • 政治的中立
  • 有権者教育

を推進する組織であり、総務省・選挙管理委員会と密接に連携する立場です。

しかし担当教授は、

  • 現役の総務官僚(本籍=総務省)
  • 明るい選挙推進協議会委員
  • 出向中の大学教授

という3つの立場を同時に持ち、その人物が選挙で選ばれる現職知事を大学講義に呼んだ

これは制度的に非常に問題のある構図です。

総務省の立場から見ても危険性が高い理由

総務省は“選挙制度の公平性”を担う省庁です。

その現役キャリアが、

  • 先輩政治家(現職知事)に
  • 大学というブランドの場を提供し
  • 若年層(有権者)に直接影響を与えうる講義を
  • 個人判断で実施し
  • 実質的な“政治的宣伝効果”が生まれる可能性を作る

これは

❌ 総務省の選挙中立義務

❌ 明るい選挙推進協議会の倫理

❌ 大学政治活動の中立性

のいずれから見ても、極めてまずい行為です。

大学側が最も恐れた「政治利用」と「キャンパスの混乱」

今回、大学が最も恐れたのは

  • デモ隊の来場
  • 学生の危険
  • キャンパスの施設破損
  • 大学ブランドの毀損
  • 「関学が知事を支持している」との誤解

つまり

大学全体が政治トラブルに巻き込まれること

でした。

それにも関わらず、総務省出向の教授は大学指導を拒否。

ここに、大学と官僚社会の価値観の完全な衝突が表れています。

この問題の本質(まとめ)

本件は単なる「講義に知事を呼んだ」という話ではありません。

【本質はこれ】

① 大学としては正式に招いていない

② 総務省キャリアの後輩教授が“身内ネットワーク”で知事を呼んだ

③ 現職知事を呼ぶことは選挙的な政治的効果を持つ

④ 担当教授は「選挙の中立性を守る立場」の明推協委員

⑤ 総務省の中立義務に反する可能性

⑥ 大学ガバナンスが置き去りにされ、法学部長が異例の抗議

大学・総務省・知事側の“利害のズレ”が生んだ構造的問題

今回の問題は、次のような利害のズレが生み出した構造的事故です。

  • 大学:政治利用されたくない/安全確保したい
  • 担当教授:官僚ネットワークで先輩を呼びたい
  • 知事:大学公式の招待のように見せたい
  • 総務省:本来は中立義務違反の疑いがある行動
  • 学生:政治トラブルに巻き込まれたくない

この構図が最悪の形でぶつかった結果、今回の問題が表面化しました。

おわりに

伊勢田法学部長がXで「大学が招いたわけではない」と明言したのは、大学として 政治的中立性とブランドを守るための最終手段 でした。

本件は、

  • 大学ガバナンス
  • 官僚組織と出向文化
  • 政治的中立義務
  • 公共機関の公平性
  • 若者教育の中立性

など、多くのテーマが交錯する極めて重要な事例です。

今後、総務省側がどのような姿勢を示すのか。
大学側がどこまでガバナンスを立て直せるか。
注視する必要があります。