牡蠣大量死が「即・倒産危機」になる理由― 観光支援では救えない、養殖業の経営構造を解説 ―
瀬戸内海で相次いでいる牡蠣の大量死について、「シェアが低い」「被害額が広島ほどではない」といった数字を根拠に、兵庫県の対応を正当化する声も見られます。
しかし、この問題の本質は、数字の大小ではありません。
牡蠣養殖という産業の経営構造を理解しているかどうか、そこが決定的な分かれ目です。
目次
- 1 牡蠣養殖は「限界利益率が高い」産業
- 2 8〜9割が死ぬというのは「売上減」ではない
- 3 小規模事業者に「耐えろ」は通用しない
- 4 なぜ「直接支援」しか現実解がないのか
- 5 養殖共済制度とは?
- 6 「シェアが低いから支援は薄くていい」という危うさ
- 7 観光支援では、牡蠣業者は救えない
- 8 想像力の欠如が、政策を誤らせる
- 9 現場は分かっているのに、なぜ止められないのか
- 10 水産漁港課が現状を理解していないとは考えにくい
- 11 問題は「届いていない」のか、「聞き入れられていない」のか
- 12 養殖業者の「生死」に関わる問題
- 13 「逆らえない空気」が政策を歪める
- 14 これは個人の資質ではなく「県政の構造」の問題
- 15 危機対応に必要なのは「異論を言える組織」
- 16 県民が不安を感じる理由
- 17 まとめ
牡蠣養殖は「限界利益率が高い」産業
牡蠣養殖の大きな特徴は、
- 餌代がほぼ不要
- 変動費が非常に小さい
という点です。
これは一見すると「コストがかからない良い商売」に見えますが、経営の観点では、限界利益率が非常に高い産業であることを意味します。
つまり、
- 平常時は利益が出やすい
- しかし、ひとたび生産量が失われると
利益だけでなく、赤字か一気に増える
という、極端なリスク構造を持っています。
変動費率が高い(限界利益率が低い)業種は、売上げを伸ばしても、それに伴って変動費も増加するので、かなかな儲からないのですが、売上げが減っても、それに伴って変動費も減少するので、売上げ減の被害は、そんなに大きくありません。
これに対して、変動費率が低い(限界利益率が高い)と、売上げが伸びても、変動費がほとんど増えないので、利益が大きくなりますが、売上げが減った時には、売上げの減少に伴って減る経費が無いので、固定費が丸々赤字になります。
8〜9割が死ぬというのは「売上減」ではない
多くの人が勘違いしていますが、牡蠣の8〜9割が死ぬというのは、単なる「売上減」ではありません。
牡蠣養殖では、
- いかだの設置
- 種付け
- 船舶・設備の維持
- 人件費
- 漁協への負担金
といったコストは、生産前にほぼ確定的に発生します。
つまり、
牡蠣が死ぬ
→ 売上は消える
→ しかし費用はほとんど減らない
という状態になります。
その結果、昨年の売上高の5〜6割程度が、そのまま赤字になる可能性がある、致命的な経営状況に陥ります。
小規模事業者に「耐えろ」は通用しない
兵庫県の牡蠣養殖業者の多くは、
- 家族経営
- 小規模法人
です。
こうした事業者に、
- 数年分の内部留保
- 大規模な資金余力
があるケースは、ほとんどありません。
さらに近年は、
- 燃料費の高騰
- 資材費の上昇
- 人件費の増加
も重なっています。
この状況で、
- 売上の半分以上が一気に消える
- 融資だけで乗り切れと言われる
これは、事実上「倒産を受け入れろ」と言っているのと同じです。
なぜ「直接支援」しか現実解がないのか
この経営構造を踏まえれば、結論は明確です。
- 融資支援
→ 借金が増えるだけで、赤字は埋まらず累積赤字が残る - 観光振興
→ 今期・来期の生産回復には何の効果も無い - 調査・モニタリング
→ 原因究明は、長期的な安定には繋がるが、目先の倒産を止める手段にはならない
必要なのは、
現金による直接支援
再生産を可能にするための資金注入
です。
だからこそ、
- 広島県
- 東広島市
- 瀬戸内市
は、迷わず牡蠣養殖業者への直接支援を打ち出しました。
養殖共済制度とは?
養殖共済は、漁業災害補償法に基づき、漁業者が相互に掛金を出し合い、災害や損害が生じた際の損失を共済金で補てんする制度です。
対象は、牡蠣などの**海面養殖の資源(例えば貝・魚など)**です。
補償の対象
養殖共済がカバーするのは次のような損害です:
養殖生物の死亡・流失による損害
被害が発生した場合、その損害について一定の割合で共済金が支払われます。
つまり、養殖中の牡蠣が大量死したり、台風などで流失したりした場合にも適用対象になります。
しかし、損失を全て補填してくれる制度ではありませんし、共済未加入の業者もいます。
「シェアが低いから支援は薄くていい」という危うさ
兵庫県の牡蠣の全国シェアは約5.6%です。
確かに広島県(約60%)と比べれば小さい数字です。
しかし、それは
地域で生活している生産者の苦しさとは、何の関係もありません。
もしこの論理が正しいなら、
- 全国シェアが低い産業
- 地域限定の産業
は、不可抗力で壊滅的被害を受けても直接支援の対象にならないことになります。
それは、地方行政の役割として、あまりに冷たい考え方です。
観光支援では、牡蠣業者は救えない
今回、兵庫県が「牡蠣応援」を掲げながら、
- ふるさと納税の寄付金を
- 観光コンテンツの磨き上げに使う
としている点に、多くの違和感が集まっています。
理由は単純です。
観光支援では、牡蠣養殖業者の倒産は防げない
からです。
今、必要なのは「人を呼ぶこと」ではなく、生産者が来年も生き残れることです。
想像力の欠如が、政策を誤らせる
この問題の根底にあるのは、
- 小規模事業者の資金繰り
- 高い限界利益率ゆえの急激な赤字化
- 内部留保の少なさ
こうした現実への想像力の欠如です。
数字だけを見て、
- シェアが低い
- 被害額が小さい
と判断すれば、政策は必ず現場からズレます。
現場は分かっているのに、なぜ止められないのか
今回の牡蠣大量死をめぐる対応について、多くの県民が感じている違和感は、単なる政策の是非だけではありません。
「なぜ、ここまで現場の声が反映されないのか」この一点に集約されます。
水産漁港課が現状を理解していないとは考えにくい
兵庫県の水産漁港課は、
- 養殖マガキの不漁状況
- 8〜9割が死滅しているという事実
- 小規模養殖業者の資金繰りの厳しさ
こうした現実を、最もよく把握している部署です。
現場に近い職員が、
- これは単なる「不漁」ではない
- 経営継続が不可能になる業者が出る
- 直接支援がなければ倒産が相次ぐ
という認識を持っていないとは、考えにくいでしょう。
問題は「届いていない」のか、「聞き入れられていない」のか
では、なぜ政策に反映されないのか。
考えられる可能性は、大きく二つです。
- 現場の危機認識が、知事に十分届いていない
- 届いていても、政策判断として採用されていない
どちらであっても、事態は深刻です。
前者であれば、
👉 トップに正確な情報が上がらない組織
後者であれば、
👉 現場の警告よりも、知事の政策判断が優先される組織
いずれにしても、危機対応としては極めて危うい状態と言わざるを得ません。
養殖業者の「生死」に関わる問題
今回の牡蠣大量死は、
- 経営努力では防げない不可抗力
- 前年売上の半分以上が一気に赤字化
- 内部留保の少ない小規模事業者に直撃
という、生死に直結する問題です。
それにもかかわらず、
- 観光施策が前面に出る
- 直接支援が後回しになる
この優先順位は、現場感覚から大きく乖離しています。
「逆らえない空気」が政策を歪める
さらに深刻なのは、
県職員も、斎藤知事に逆らえないのではないか
と県民に感じさせてしまっている点です。
もし、
- 現場の職員が危機を訴えても
- 政策の方向性が変わらない
- 表向きの説明だけが整えられる
という状態であれば、それは
健全な政策形成プロセスが機能していない
ことを意味します。
これは個人の資質ではなく「県政の構造」の問題
ここで重要なのは、この指摘は誰かを悪者にする話ではないということです。
- 職員が無能なのではない
- 現場が怠慢なのでもない
むしろ、
- トップの意向が強すぎる
- 現場の専門性が政策に反映されにくい
という組織構造の問題が、結果として表に出ているのです。
危機対応に必要なのは「異論を言える組織」
大規模災害や産業危機のときに必要なのは、
- トップの決断力だけではありません
- 現場が「これは危ない」と言える空気
- 専門部署がブレーキをかけられる仕組み
です。
今回の牡蠣問題は、
「異論が通らない県政になっていないか」
という、より大きな問いを県民に突きつけています。
県民が不安を感じる理由
多くの県民が不安を感じているのは、
- 牡蠣業者の問題そのものだけでなく
- 今後、別の危機が起きたときも同じ構図になるのではないか
という点です。
もし、
- 農業
- 漁業
- 中小企業
- 災害対応
で同じ判断が繰り返され、現場で起こっている危機を軽視されるなら、それは県民全体のリスクになります。
まとめ
- 牡蠣養殖は、限界利益率が高い分、被害時の赤字も極端
- 8〜9割の大量死は、経営継続不能レベル
- 小規模事業者に内部留保はない
- 融資や観光では倒産は防げない
- 必要なのは、公的な直接支援
- それを行っているかどうかが、行政の姿勢を分ける
「牡蠣応援」と言うなら、まず守るべきは、牡蠣を育ててきた人の生活です。






