国の補助を引き出せる県、引き出せない県― 同じ水産危機でも明暗が分かれる理由 ―
瀬戸内海で起きている牡蠣の大量死をめぐり、広島県と兵庫県では、国の支援を引き出せるかどうかという点で、すでに大きな差が生じています。
この違いは、決して「被害の大きさ」や「全国シェア」だけで決まっているものではありません。
国の補助を引き出せる県には、共通した条件があります。
目次
- 1 国の補助は「要望があれば出る」ものではない
- 2 条件① 県が「先に腹をくくっているか」
- 3 条件② 議会を通して「公の意思決定」をしているか
- 4 条件③ 現場・行政・国会議員が一本でつながっているか
- 5 兵庫県の致命的な弱点
- 6 条件④ ロジックが一貫しているか
- 7 兵庫県のロジック
- 8 「シェアが大きいから支援される」は誤解
- 9 国の補助を引き出せる県の共通点
- 10 国策だけでは救われない― 兵庫県は「国の牡蠣政策」をどう補完すべきか ―
- 11 国の政策は「未来志向」、今の赤字は救わない
- 12 だからこそ「県の役割」が決定的になる
- 13 広島県は「役割分担」をしている
- 14 兵庫県が今すぐ取り得る現実的な補完策
- 15 今回の対応が示したものは、将来への「予告編」
- 16 「県の本気度」は、国に必ず見抜かれる
- 17 国会議員との連携を断つことの本当の代償
- 18 今後、問題になり得る分野は無数にある
国の補助は「要望があれば出る」ものではない
まず大前提として、水産庁を含む国の支援は、次のような性格を持っています。
- 自動的に配られるものではない
- 「被害がある=即補助」ではない
- 地方自治体の姿勢と行動が厳しく見られる
国は常に、こう考えています。
「まず地方がどこまで責任を持つのか。
それを超える部分を、国が支える。」
つまり、県が本気でなければ、国も本気にならないという関係です。
県が本気で支えようとしていないのに、国が手を差し伸べることはあり得ないことなのです。
条件① 県が「先に腹をくくっているか」
▶ 国の補助を引き出せる県
- 県単独で 直接支援 を決断
- 融資だけに逃げない
- 「倒産を防ぐ」という明確な目的がある
広島県の例
- 再養殖用のいかだに対し
20億円の直接補助 - 「融資だけでは生産は維持できない」と公式に判断
県内の一部海域では養殖カキの9割が死ぬ被害が出ています。会には県漁連と漁協関係者、水産庁や県、それに国会議員が出席し、政府の取りまとめた政策パッケージや支援策について意見を交わしました。
「カキ大量死 支援策を県漁連と国が意見交換 「融資だけでは足りず、補助金をお願いしたい」との声も」
https://news.yahoo.co.jp/articles/72355d1dc6aba1a1beb37b516ee587c8511b2342(出典:中国放送 2025年12月21日)
▶ 国の補助を引き出せない県
- 支援の中心が融資
- 共済があることを理由に静観
- 直接補助を出さない
兵庫県の現状
- 共済+融資が柱
- 共済未加入の業者は無補償
- 県単独の大規模直接支援なし
- 被災漁協への最大100万円
国は「覚悟のない県」を後押ししない。
海域調査は「将来対策」であって「今の救済」ではない
海域調査は必要です。
しかし、
- 調査 → 原因特定 → 対策 → 効果
までに年単位がかかる。
今困っているのは、
- 餌代
- 人件費
- 種苗購入費
- 生活費
調査は“未来のため”であって、今を救わない。
条件② 議会を通して「公の意思決定」をしているか
国は、地方自治体の議会軽視・トップダウン を非常に警戒します。
国が評価するのは
- 補正予算を組んだか
- 議会で説明したか
- 批判も含めて議論したか
広島県は、
- 県議会12月定例会に補正予算案を提出
- 公式な意思決定として「県の総意」を示した
これがあるから、国は「税金を重ねて投入する根拠」を持てる。
条件③ 現場・行政・国会議員が一本でつながっているか
広島市で行われた意見交換会には、
- 県漁連
- 漁協
- 県
- 水産庁
- 国会議員
が同席しました。
これは非常に重要です。
なぜなら、
- 国の補正予算は国会を通る
- 制度設計は政治判断を伴う
- 官僚だけでは決められない
からです。
兵庫県の致命的な弱点
兵庫県では、
- 知事が
国会議員との懇談会を廃止 - 県政と国政のパイプが細い
- 現場の声が国に届きにくい
国を動かす「政治ルート」が弱体化している。
国会議員との懇談会廃止がもたらしたもの― 因果関係を想像しない政治の危うさ ―
斎藤知事は、自らの判断で、県と国会議員との懇談会を廃止しました。
背景には、
- 県議会との対立
- 国会議員との緊張関係
- 不要な摩擦を避けたいという意向
があったと見られます。
ここで重要なのは、その是非ではなく、その判断がもたらす結果を想像できていたのかという点です。
「国会議員に頼る場面は来ない」という前提
懇談会廃止の判断には、
「県政は県で完結できる」
「国会議員に頭を下げる場面は、そう簡単には来ない」
という前提があったように見えます。
しかし、今回の牡蠣大量死は、まさにその前提を覆しました。
- 県の財政だけでは足りない
- 国の制度・予算が不可欠
- 水産庁を動かすには政治の力が要る
そのときに、国会議員との公式な対話の場が存在しない。
懇談会廃止が生んだ「空白」
国会議員との懇談会は、
- 要望を出す場
- 調整をする場
- 陳情をする場
である以前に、
「非常時に連携できる関係を平時から作っておく場」
でした。
それを廃止したことで、
- 県政と国政のパイプが細くなり
- 非公式な連携も取りづらくなり
- 結果として、県民の不利益につながる
という空白が生まれています。
条件④ ロジックが一貫しているか
国は「情」ではなく、ロジックで動きます。
広島県のロジック
- 不可抗力で9割が死亡
- 共済・融資だけでは足りない
- 県が直接補助を実施
- それでも不足する
- だから国の支援が必要
→ 一貫している。
兵庫県のロジック
- 不漁が発生
- 共済と融資がある
- 観光支援も実施
→「なぜ直接支援が不要なのか」が説明できない。
「シェアが大きいから支援される」は誤解
よく言われる反論があります。
「広島は全国シェア60%だから国が動く」
しかし、国の判断基準は、
- シェアではなく
- 被害の不可抗力性
- 産業継続の危機
- 地方の覚悟
です。
兵庫県の牡蠣が5.6%であっても、
- 倒産が続出する
- 産地が消滅する
なら、国が無関心で良い理由にはなりません。
国の補助を引き出せる県の共通点
国の支援を受けられる県には、共通点があります。
- 県が先に直接支援を決断している
- 議会を通している
- 現場と政治がつながっている
- ロジックが一貫している
広島県は、これをすべて満たしています。
兵庫県は、まだ満たしていません。
斎藤知事は、県民の命と財産を守ると言う強いコミットメントが無いことが、様々な問題を引き起こしています。県民の安心・安全よりも、自分がやりたいことを優先する、子どものような思考パターンと因果関係が分からないことが県政の全ての混乱の原因。
国策だけでは救われない― 兵庫県は「国の牡蠣政策」をどう補完すべきか ―
高水温等による牡蠣の大量死を受けて、国は「養殖業体質強化緊急総合対策事業」などの政策パッケージを打ち出しました。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/kaki_youshoku-8.pdf
しかし、その内容を丁寧に読み解くと、国の政策は万能ではないことが分かります。
兵庫県が本当に養殖業者を守るためには、国策を「待つ」のではなく、明確に補完する役割を果たす必要があります。
国の政策は「未来志向」、今の赤字は救わない
国の政策パッケージの中心は、
- 協業化・共同購入
- 規模拡大・集約化
- 環境変動に対応した養殖手法への転換
- 新規投資への補助(補助率1/2)
です。
これは言い換えれば、
「これから生き残る事業体を作る政策」
であり、
- 今年発生した赤字
- 失われた売上
- 借金の穴埋め
を補う制度ではありません。
国は「将来」を見ていますが、「今、倒れそうな業者」を直接救う仕組みは用意していないのです。
だからこそ「県の役割」が決定的になる
この構図の中で、兵庫県が果たすべき役割は明確です。
国がカバーしない部分を、県が埋めること
これ以外に、県政の存在意義はありません。
広島県は「役割分担」をしている
広島県は、すでにこの役割分担を実践しています。
- 国の制度
→ 将来投資・構造転換 - 県の制度
→ 再養殖・事業継続支援
その上で、
- 国会議員
- 水産庁
- 現場
と連携し、不足分を国に要請しています。
これは「曖昧な連携」ではなく、極めて現実的な行政対応です。
兵庫県が今すぐ取り得る現実的な補完策
兵庫県が、今からでもできる補完策はあります。
- 国策と同じ土俵で競わない
- 国策の「前」と「横」を支える
例えば、
- 再養殖費用への県単独補助
- 共済未加入業者向けの緊急支援
- 協業化準備段階への支援
- 国策活用のための専門チーム設置
これらは、国策に逆らうものではなく、国策を生かすための支援です。
今回の対応が示したものは、将来への「予告編」
広島県と兵庫県の対応の差は、単に「牡蠣への支援の厚薄」を示しただけではありません。
それは、
- 県がどこまで本気で責任を引き受けるのか
- 困ったときに、国とどう連携できるのか
という、県政の基礎体力を露わにしました。
この差は、今後、さまざまな場面で繰り返し問題になります。
「県の本気度」は、国に必ず見抜かれる
今回の事例で明確になったのは、
国は、言葉ではなく「行動」で県の本気度を判断する
という現実です。
- 県単独でどこまで踏み込んだか
- 議会を通して覚悟を示したか
- 現場の声を政策に反映させたか
広島県はこれを示しました。
兵庫県は、少なくとも現時点では示せていません。
この差は、次に国の支援が必要になったとき、前例として必ず参照されます。
国会議員との連携を断つことの本当の代償
国会議員との懇談会を廃止することは、
- 「対立を避ける」
- 「政治色を薄める」
という意図だったのかもしれません。
しかし結果として生じたのは、
非常時に、国を動かすための回路を自ら狭めた
という現実です。
今回、広島では、
- 現職大臣を含む国会議員が同席し
- 「次の会合も考える」と明言しました
これは、単なる人間関係ではなく、制度と予算を動かすための回路です。
この回路を持たない県は、次の危機でも同じ困難に直面します。
今後、問題になり得る分野は無数にある
今回と同じ構図が想定される分野は、決して少なくありません。
- 農業(高温障害・担い手不足)
- 漁業(海水温・資源減少)
- 中小企業(原材料高・人手不足)
- 災害対応(激甚化・長期化)
- 医療・福祉(人材流出・経営難)
これらはすべて、
- 県の財政だけでは限界があり
- 国との連携が不可欠な分野
です。
そのとき、
県がどれだけ本気か
国会議員と普段から対話できているか
が、結果を大きく左右します。






