国の補助を引き出せる県、引き出せない県― 同じ水産危機でも明暗が分かれる理由 ―

瀬戸内海で起きている牡蠣の大量死をめぐり、広島県と兵庫県では、国の支援を引き出せるかどうかという点で、すでに大きな差が生じています。

この違いは、決して「被害の大きさ」や「全国シェア」だけで決まっているものではありません。

国の補助を引き出せる県には、共通した条件があります。

目次

国の補助は「要望があれば出る」ものではない

まず大前提として、水産庁を含む国の支援は、次のような性格を持っています。

  • 自動的に配られるものではない
  • 「被害がある=即補助」ではない
  • 地方自治体の姿勢と行動が厳しく見られる

国は常に、こう考えています。

「まず地方がどこまで責任を持つのか。
それを超える部分を、国が支える。」

つまり、県が本気でなければ、国も本気にならないという関係です。

県が本気で支えようとしていないのに、国が手を差し伸べることはあり得ないことなのです。

条件① 県が「先に腹をくくっているか」

▶ 国の補助を引き出せる県

  • 県単独で 直接支援 を決断
  • 融資だけに逃げない
  • 「倒産を防ぐ」という明確な目的がある

広島県の例

  • 再養殖用のいかだに対し
    20億円の直接補助
  • 「融資だけでは生産は維持できない」と公式に判断

県内の一部海域では養殖カキの9割が死ぬ被害が出ています。会には県漁連と漁協関係者、水産庁や県、それに国会議員が出席し、政府の取りまとめた政策パッケージや支援策について意見を交わしました。

「カキ大量死 支援策を県漁連と国が意見交換 「融資だけでは足りず、補助金をお願いしたい」との声も」
https://news.yahoo.co.jp/articles/72355d1dc6aba1a1beb37b516ee587c8511b2342(出典:中国放送 2025年12月21日)

▶ 国の補助を引き出せない県

  • 支援の中心が融資
  • 共済があることを理由に静観
  • 直接補助を出さない

兵庫県の現状

  • 共済+融資が柱
  • 共済未加入の業者は無補償
  • 県単独の大規模直接支援なし
  • 被災漁協への最大100万円

国は「覚悟のない県」を後押ししない。

海域調査は「将来対策」であって「今の救済」ではない

海域調査は必要です。
しかし、

  • 調査 → 原因特定 → 対策 → 効果
    までに年単位がかかる。

今困っているのは、

  • 餌代
  • 人件費
  • 種苗購入費
  • 生活費

調査は“未来のため”であって、今を救わない。

条件② 議会を通して「公の意思決定」をしているか

国は、地方自治体の議会軽視・トップダウン を非常に警戒します。

国が評価するのは

  • 補正予算を組んだか
  • 議会で説明したか
  • 批判も含めて議論したか

広島県は、

  • 県議会12月定例会に補正予算案を提出
  • 公式な意思決定として「県の総意」を示した

これがあるから、国は「税金を重ねて投入する根拠」を持てる。

条件③ 現場・行政・国会議員が一本でつながっているか

広島市で行われた意見交換会には、

  • 県漁連
  • 漁協
  • 水産庁
  • 国会議員

が同席しました。

これは非常に重要です。

なぜなら、

  • 国の補正予算は国会を通る
  • 制度設計は政治判断を伴う
  • 官僚だけでは決められない

からです。

兵庫県の致命的な弱点

兵庫県では、

  • 知事が
    国会議員との懇談会を廃止
  • 県政と国政のパイプが細い
  • 現場の声が国に届きにくい

国を動かす「政治ルート」が弱体化している。

国会議員との懇談会廃止がもたらしたもの― 因果関係を想像しない政治の危うさ ―

斎藤知事は、自らの判断で、県と国会議員との懇談会を廃止しました。

背景には、

  • 県議会との対立
  • 国会議員との緊張関係
  • 不要な摩擦を避けたいという意向

があったと見られます。

ここで重要なのは、その是非ではなく、その判断がもたらす結果を想像できていたのかという点です。

「国会議員に頼る場面は来ない」という前提

懇談会廃止の判断には、

「県政は県で完結できる」
「国会議員に頭を下げる場面は、そう簡単には来ない」

という前提があったように見えます。

しかし、今回の牡蠣大量死は、まさにその前提を覆しました。

  • 県の財政だけでは足りない
  • 国の制度・予算が不可欠
  • 水産庁を動かすには政治の力が要る

そのときに、国会議員との公式な対話の場が存在しない。

懇談会廃止が生んだ「空白」

国会議員との懇談会は、

  • 要望を出す場
  • 調整をする場
  • 陳情をする場

である以前に、

「非常時に連携できる関係を平時から作っておく場」

でした。

それを廃止したことで、

  • 県政と国政のパイプが細くなり
  • 非公式な連携も取りづらくなり
  • 結果として、県民の不利益につながる

という空白が生まれています。

条件④ ロジックが一貫しているか

国は「情」ではなく、ロジックで動きます。

広島県のロジック

  1. 不可抗力で9割が死亡
  2. 共済・融資だけでは足りない
  3. 県が直接補助を実施
  4. それでも不足する
  5. だから国の支援が必要

→ 一貫している。

兵庫県のロジック

  1. 不漁が発生
  2. 共済と融資がある
  3. 観光支援も実施

「なぜ直接支援が不要なのか」が説明できない。

「シェアが大きいから支援される」は誤解

よく言われる反論があります。

「広島は全国シェア60%だから国が動く」

しかし、国の判断基準は、

  • シェアではなく
  • 被害の不可抗力性
  • 産業継続の危機
  • 地方の覚悟

です。

兵庫県の牡蠣が5.6%であっても、

  • 倒産が続出する
  • 産地が消滅する

なら、国が無関心で良い理由にはなりません。

国の補助を引き出せる県の共通点

国の支援を受けられる県には、共通点があります。

  • 県が先に直接支援を決断している
  • 議会を通している
  • 現場と政治がつながっている
  • ロジックが一貫している

広島県は、これをすべて満たしています。
兵庫県は、まだ満たしていません。

斎藤知事は、県民の命と財産を守ると言う強いコミットメントが無いことが、様々な問題を引き起こしています。県民の安心・安全よりも、自分がやりたいことを優先する、子どものような思考パターンと因果関係が分からないことが県政の全ての混乱の原因。

国策だけでは救われない― 兵庫県は「国の牡蠣政策」をどう補完すべきか ―

高水温等による牡蠣の大量死を受けて、国は「養殖業体質強化緊急総合対策事業」などの政策パッケージを打ち出しました。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/kaki_youshoku-8.pdf
しかし、その内容を丁寧に読み解くと、国の政策は万能ではないことが分かります。

兵庫県が本当に養殖業者を守るためには、国策を「待つ」のではなく、明確に補完する役割を果たす必要があります。

国の政策は「未来志向」、今の赤字は救わない

国の政策パッケージの中心は、

  • 協業化・共同購入
  • 規模拡大・集約化
  • 環境変動に対応した養殖手法への転換
  • 新規投資への補助(補助率1/2)

です。

これは言い換えれば、

「これから生き残る事業体を作る政策」

であり、

  • 今年発生した赤字
  • 失われた売上
  • 借金の穴埋め

を補う制度ではありません。

国は「将来」を見ていますが、「今、倒れそうな業者」を直接救う仕組みは用意していないのです。

だからこそ「県の役割」が決定的になる

この構図の中で、兵庫県が果たすべき役割は明確です。

国がカバーしない部分を、県が埋めること

これ以外に、県政の存在意義はありません。

広島県は「役割分担」をしている

広島県は、すでにこの役割分担を実践しています。

  • 国の制度
    → 将来投資・構造転換
  • 県の制度
    → 再養殖・事業継続支援

その上で、

  • 国会議員
  • 水産庁
  • 現場

と連携し、不足分を国に要請しています。

これは「曖昧な連携」ではなく、極めて現実的な行政対応です。

兵庫県が今すぐ取り得る現実的な補完策

兵庫県が、今からでもできる補完策はあります。

  • 国策と同じ土俵で競わない
  • 国策の「前」と「横」を支える

例えば、

  • 再養殖費用への県単独補助
  • 共済未加入業者向けの緊急支援
  • 協業化準備段階への支援
  • 国策活用のための専門チーム設置

これらは、国策に逆らうものではなく、国策を生かすための支援です。

今回の対応が示したものは、将来への「予告編」

広島県と兵庫県の対応の差は、単に「牡蠣への支援の厚薄」を示しただけではありません。

それは、

  • 県がどこまで本気で責任を引き受けるのか
  • 困ったときに、国とどう連携できるのか

という、県政の基礎体力を露わにしました。

この差は、今後、さまざまな場面で繰り返し問題になります。

「県の本気度」は、国に必ず見抜かれる

今回の事例で明確になったのは、

国は、言葉ではなく「行動」で県の本気度を判断する

という現実です。

  • 県単独でどこまで踏み込んだか
  • 議会を通して覚悟を示したか
  • 現場の声を政策に反映させたか

広島県はこれを示しました。
兵庫県は、少なくとも現時点では示せていません。

この差は、次に国の支援が必要になったとき、前例として必ず参照されます。

国会議員との連携を断つことの本当の代償

国会議員との懇談会を廃止することは、

  • 「対立を避ける」
  • 「政治色を薄める」

という意図だったのかもしれません。

しかし結果として生じたのは、

非常時に、国を動かすための回路を自ら狭めた

という現実です。

今回、広島では、

  • 現職大臣を含む国会議員が同席し
  • 「次の会合も考える」と明言しました

これは、単なる人間関係ではなく、制度と予算を動かすための回路です。

この回路を持たない県は、次の危機でも同じ困難に直面します。

今後、問題になり得る分野は無数にある

今回と同じ構図が想定される分野は、決して少なくありません。

  • 農業(高温障害・担い手不足)
  • 漁業(海水温・資源減少)
  • 中小企業(原材料高・人手不足)
  • 災害対応(激甚化・長期化)
  • 医療・福祉(人材流出・経営難)

これらはすべて、

  • 県の財政だけでは限界があり
  • 国との連携が不可欠な分野

です。

そのとき、

県がどれだけ本気か
国会議員と普段から対話できているか

が、結果を大きく左右します。