【2026年1月施行】兵庫県「公益通報」要綱改正が突きつけた核心|“制度は改めるが過去は適法”の矛盾

兵庫県が「公益通報」要綱を改正した意味は何か

兵庫県は2026年1月付で、**「兵庫県内部公益通報制度実施要綱」**を公表しました。
この要綱は、県職員等の内部通報だけでなく、**外部通報(法3条2号・3号)**も含めた取り扱いを明確化し、通報者保護・運用透明性を制度として言語化しています。特に兵庫県では、いわゆる「文書問題」をめぐって公益通報者保護法の理解と運用が争点化してきたため、今回の改正は“制度面の回答”そのものです。

県も制度ページで、公益通報の通報先として**内部・行政機関・外部(報道機関等)**を整理しており、外部通報を含む全体像は制度設計の前提になっています。

改正要綱の「押さえるべきポイント」5つ

会見でも話題になった箇所を、条文ベースで要点化します。

(1)知事・幹部が関係する事案は「独立性を確保」

要綱は、知事等や幹部職員に関係する案件について**「独立性を確保する措置」**を取ると明記しています。
ここは兵庫問題のまさに核心で、「トップに不利な通報ほど、握りつぶし圧力が働きやすい」構造に対して、制度がどう歯止めをかけるかの宣言です。

(2)通報者探索は原則禁止(正当理由がある場合のみ例外)

要綱は、通報者等の探索をしないよう必要措置を講じる、と定めています(例外は「正当な理由」がある場合)。

(3)範囲外共有の禁止(“知る必要がない人に広げない”)

通報者を特定させる事項の共有は、必要最小限を超えてはならないと明記。
「噂として庁内に広がる」こと自体が萎縮効果を生みます。制度の生命線です。

(4)外部通報でも“内部と同様に保護”

要綱は、内部公益通報によらず**外部公益通報(法3条2号・3号)**を行った場合でも、内部通報と同様の保護を受けられるよう通報者を保護すると定めています。
この一点だけでも、「外部通報は保護の射程外」という理解を取りにくくします。

(5)「原則受理」だが、受理しない例外類型も明記

要綱は「原則として受理」しつつ、例外として

  • 通報対象事実がないことが明らか
  • 内容が著しく不分明
  • 虚偽であることが明らか
  • 過去事案で調査手段がない
  • 既に当該事案について適切な対応が完了している
    などを列挙しています。

ここは会見でも関西テレビが突いた通り、運用次第で「適切に対応済み」を理由に入口を狭めうるため、誰が・どの基準で判断し、異議申立てや再検討の回路があるのかが重要になります。

1月7日会見で露呈した「制度と説明責任」のズレ

会見では質問が公益通報に集中しました。これは偶然ではなく、**兵庫問題が“過去の是非”ではなく、“今後も起きる告発への向き合い方”**に移っているからです。

ポイントは、知事答弁が概ね次の型に収束している点です。

  • 要綱改正は「国の法改正・指針改定を踏まえた」
  • しかし文書問題は「適正・適切・適法だった」
  • 根拠の説明や相談した弁護士の人数など具体質問は「担当課へ」「以前説明済み」

この型が続くほど、県民が感じるのはシンプルにこれです。

制度は“改める”。しかし過去の是非は“説明しない”。
では、改正要綱は誰のための何の改正なのか?

制度改正は前進です。しかし、制度が信頼される条件は「紙」ではなく、自分たちに不利な案件でも同じルールで運用されるという確信です。

「体制整備義務は外部通報も含むのか」論点が炎上し続ける理由

この論点は、“法律の解釈論争”に見えて、実際には組織の説明責任の問題です。

消費者庁は公益通報者保護制度のページで、法定指針やガイドライン(内部・外部それぞれ)を体系的に示しています。
つまり国側は、少なくとも運用の枠組みとして、外部を含む整理を準備している。

一方で兵庫県側が「当時そういう見解もあると紹介しただけ」と言うと、県職員や県民からはこう見えます。

  • 間違いだったのか
  • 県の公式解釈はどれなのか
  • いつからどの解釈で運用していたのか
  • なぜ撤回も訂正もせず、要綱だけ先に変わるのか

この“解釈の曖昧さ”が、内部の萎縮と外部の不信を増幅させます。

浮き彫りになった「知事の解釈」と「兵庫県の解釈」の決定的な乖離

1月7日の定例会見で、最も本質的だったのは、毎日新聞の質問である。
それは単なる追及ではなく、事実上の「整理宣言」だった。

毎日新聞は、12月末に行われた担当課からのレクを踏まえ、次の点を明確にした。

公益通報者保護法の3号通報について、要綱改正の前後で法解釈は変わっていない
不利益取扱いの防止、範囲外共有の防止、通報者探索の防止は、以前から保護の対象であり、今回の要綱改正は分かりやすく明記しただけだ、というのが兵庫県担当課の説明である。

これは極めて重い意味を持つ。
なぜなら、この説明が事実であるならば、

  • 兵庫県としては
    「3号通報は、改正前から保護対象だった」
  • 国(消費者庁)の解釈とも整合している
  • 要綱改正は「解釈変更」ではない

ということになる。

その一方で、知事はこれまで繰り返し、

  • 体制整備義務は内部通報に限られるという考えもある
  • 当時はそうした見解を紹介しただけ
  • 発言の撤回はしない

と述べてきた。

この時点で、論理は完全に破綻している
もし知事の解釈が正しいのであれば、今回の要綱改正は、現行法を超えた「違法な上書き」になってしまう。
逆に、要綱改正が適法であり、担当課の説明が正しいのであれば、知事の過去発言こそが誤っていたことになる。

つまり、毎日新聞の質問は、次の事実を静かに突きつけた。

それは「兵庫県知事の解釈」であって、
「兵庫県行政としての解釈」ではないのではないか。

ここで重要なのは、担当課が知事の見解を擁護する説明を一切しなかったという点である。

担当課は、

  • 国の解釈
  • 要綱の趣旨
  • 行政実務の整合性

を優先し、
**「解釈は以前から同じだった」**と説明した。

これは、知事に反旗を翻したというよりも、兵庫県行政が、法と制度の側に立ち戻ったと見るべきだろう。

結果として、会見の場には次の構図がはっきりと現れた。

  • 国の解釈
  • 兵庫県の要綱
  • 担当課の説明

これらはすべて一致している。
一致していないのは、知事の過去発言だけである。

公益通報制度の信頼性を損なっているのは、制度そのものではない。
違法性の指摘を受けた後も、誰のどの解釈に基づいて判断したのかを説明せず、撤回もしないという、トップの姿勢そのものである。

このズレを放置したままでは、要綱をいくら整備しても、職員が「本当に守られる」と感じることはない。

兵庫問題の核心は、公益通報が正しかったか否かではない。

権力を持つ側が、自らの判断の誤りを検証し、是正できるのか。
その一点に尽きる。

国会と消費者庁が示した「終わっていない」という公式メッセージ

1月7日の会見で、もう一つ決定的だったのが、フリー赤澤氏の質問である。
この質問は、兵庫県内部の解釈論争を超え、国の統治機構そのものがどう見ているかを突きつけた。

赤澤氏は、衆議院予算委員会で川内博史議員が、総理に対し次のように迫った事実を示した。

「知事が『3号通報は保護対象でない』と言い放った。
その発言だけは訂正するよう、指導すべきではないか。」

これは単なる野党議員の批判ではない。
地方自治体の首長の法解釈が、国会の場で総理答弁を伴って問題視されるという、極めて異例の事態である。

さらに赤澤氏は、川内議員本人から聞いた言葉として、こう明かした。

「消費者庁は、この問題は終わったとは思っていない。
技術的助言は、今も生きている。
斎藤知事が『あの発言は間違っていました』と言わない限り、終わらない。」

この発言の重みは、計り知れない。

ここで示されたのは、「制度改正をすれば問題は解消する」という整理を、国は認めていないという事実である。

消費者庁の技術的助言とは、単なる参考意見ではない。
公益通報者保護法の所管庁として、現行法の解釈と運用に照らし、是正を求める公式な行政行為である。

つまり国の立場は、明確だ。

  • 3号通報は保護対象である
  • 体制整備義務の射程に含まれる
  • それを否定する発言は、是正されるべきである

だからこそ、「撤回しない限り終わらない」という、極めて強い言葉が使われている。

しかし知事の答弁は、ここでも同じだった。

  • 詳細は承知していない
  • 法の趣旨は理解している
  • 適切に対応している

国会で議論され、消費者庁の助言が生きていると指摘されても、発言の誤りを検証する姿勢そのものが示されなかった

この結果、何が起きているのか。

赤澤氏が最後に指摘した通り、県庁職員が板挟みになっているのである。

  • 国は「終わっていない」と言う
  • 県の要綱は国解釈に合わせて整備される
  • 担当課は「以前から同じ解釈だった」と説明する
  • しかし知事だけが、過去発言を撤回しない

この状態は、制度の問題ではない。
トップの言葉が、組織を分断し、萎縮させている状態だ。

公益通報者保護法が守ろうとしているのは、単なる通報者ではない。

違法や不正を指摘した者が、組織の都合によって切り捨てられない社会そのものである。

消費者庁が「終わっていない」と明言している以上、この問題は、要綱改正で幕引きできる話ではない。

問われているのは、誤った可能性のある権力者の発言を、誰が、どのように是正するのか。

そして、その是正から逃げ続ける限り、兵庫問題は終わらない。

今後チェックすべき「運用KPI」:制度を“動くもの”にする最低条件

制度の信頼は、次の観察項目で概ね測れます。

  • 受理・不受理の件数と理由の公表(どれくらい透明化するか)
  • 外部窓口の実効性(利用者が安心できる導線か)
  • 「通報者探索」や「範囲外共有」に違反した場合の実際の是正
  • 知事・幹部案件での独立性確保(外部専門家への委任が機能するか)
  • 「適切な対応が完了」を理由にした不受理が濫用されていないか

ここを“数字と事例”で出せるかどうかが、要綱改正の成否です。

兵庫問題の核心は「告発の是非」ではなく「権力の自己監督」だ

公益通報者保護法は、告発者を守るためだけの制度ではありません。
組織が自浄できるか、権力が自分に不利な情報を正しく扱えるかを測る制度です。

だから1月7日の会見で質問が集中したのは当然で、ここから問われるのは一つです。

  • 要綱を改正したのなら、その要綱の思想(独立性、探索禁止、外部通報の保護)を、過去の検証にも一貫して適用できるのか。

改正はスタートラインです。次に必要なのは、具体の説明と、運用の可視化です。