同じ「不漁」でも、ここまで違う-兵庫は「自己責任型融資」、広島は「事業継続型直接支援」
播磨灘で起きている養殖マガキの深刻な不漁に対し、兵庫県と広島県は、まったく異なる支援策を打ち出しています。
一見すると、どちらも「支援」を行っているように見えますが、その中身を詳しく見ると、不漁をどう捉えているのか、行政としての考え方の違いがはっきり表れています。
目次
兵庫県の対応|融資条件の緩和と利子補給
兵庫県が今回打ち出した支援の柱は、なぎさ信用漁業協同組合連合会(明石市)が扱う融資制度の拡充です。
兵庫県の主な内容
- 対象資金:
「豊かな海づくり資金」 - 償還期限:
5年以内 → 7年以内 - 融資限度額:
- 個人:500万円 → 1,000万円
- 法人:1,000万円 → 2,000万円
- 貸付利率:
年1.35% → 3年間無利子 - 利子補給の負担:
- 県:3分の2
- 市町:3分の1
- 基準金利2.85%との差(1.5%)も、県と市町が折半負担
この制度は、「借りられる条件を良くする」支援です。
「兵庫県、カキ養殖業者の支援へ 3年間の無利子融資、限度額も倍増」
https://www.asahi.com/articles/ASTD533WCTD5PIHB008M.html(出典:朝日新聞 2025年12月6日)
「漁協に最大100万円」の正体
まず、この100万円は
- 個々の養殖業者への補助ではない
- 漁協“1団体あたり”の上限
です。
つまり、
- 数十戸の養殖業者を抱える漁協でも
- 被害が壊滅的でも
一律で最大100万円
これは
- 共用備品
- 事務費
- 簡易な対応経費
レベルの金額であり、
再生産にも生活再建にも全く届きません。
兵庫県の支援が前提としている考え方
この仕組みから読み取れる前提は、次の通りです。
- 不漁は基本的に 経営上のリスク
- 当面の資金繰りは、融資でしのぐ
- 返済は、将来の経営努力で行う
つまり兵庫県の支援は、
「今回の不漁は、原則として自己責任」
「公的支援は、借金の条件を軽くするにとどめる」
という考え方に立っています。
広島県の対応|再生産への直接補助
一方、広島県は、まったく異なる判断をしました。
広島県の主な内容
- 再養殖のための カキいかだ再建費用を2分の1補助
- 上限:いかだ1台あたり50万円
- 対象:
約4,000台 - 財源:
国の「物価高対応重点支援地方交付金」 - 県内の状況:
- 養殖業者:約290業者
- いかだ:約12,000台
広島県は、利子補給も検討・実施していますが、
それだけでは不十分だと明確に判断しました。
「カキ大量死の広島県、20億円で養殖業者支援 いかだを組む費用補助」
https://www.asahi.com/articles/ASTDD41TVTDDPITB005M.html(出典:朝日新聞 2025年12月13日)
広島県が示した、決定的な認識
広島県は公式に、
「当面の資金繰りを支えるだけでは、
カキの生産量の維持は困難」
と判断しています。
つまり、
- 融資だけでは足りない
- 借金を増やしても、生産は戻らない
- 再生産そのものを支えなければ、産業が崩壊する
という認識です。
両県の支援の違いを一言で言うと
- 兵庫県:
赤字は各事業者が背負い、将来返済する前提 - 広島県:
今期の赤字は来期以降で回収できるよう、公が支える
さらに広島県の制度は、
「事業を継続すること」が、支援を受ける前提
になっています。
これは、
- 廃業したら終わり
- 継続する意思のある事業者を、公が支える
という、産業維持型の発想です。
融資か、補助か──その違いは「倒産を防げるか」
会計的に見れば、両者の違いは明確です。
兵庫県型(融資中心)
- 赤字 → 借金で穴埋め
- 借金 → 将来返済義務
- 内部留保の少ない小規模事業者は、融資によって当面の資金繰りは何とかなるが、返済額が増えるので、資金ショートによる倒産リスクが残る。累積赤字も全額残る
広島県型(直接補助)
- 赤字の一部を公が負担
- 再生産が可能になる
- 来期以降の収益で立て直せる
結果として、
「倒産を防ぐ設計」になっているかどうか
が、決定的に異なります。
見えてくる行政の姿勢の違い
この違いは、単なる制度設計の差ではありません。
- 兵庫県:
不漁=経営リスク → 自己責任が原則 - 広島県:
不漁=不可抗力の産業危機 → 公的責任で支える
同じ自然災害的な不漁でも、行政がどう捉えるかで、結論は正反対になります。
牡蠣不漁が浮き彫りにした「兵庫県政の静かな危機」
播磨灘の牡蠣大量死をめぐる対応について、これまで主に「政策の中身」や「支援の方向性」を見てきました。
しかし、もう一つ、見落としてはならない視点があります。
それは、現場と政策の間に挟まれている県職員の存在です。
水産漁港課の職員が、現場を知らないはずがない
兵庫県の水産漁港課の職員は、
- 牡蠣組合の関係者
- 養殖業者
- 漁協職員
と日常的に顔を合わせ、話を聞き、関係を築いてきた人たちです。
机上の数字だけで判断しているわけではありません。
- 8〜9割が死んだ現場
- 来年の種付けの見通しが立たない不安
- 「このままでは廃業か倒産しかない」という切実な声
そうした現実を、誰よりも近くで見ているのが水産漁港課の職員でしょう。
養殖共済制度とは?
養殖共済は、漁業災害補償法に基づき、漁業者が相互に掛金を出し合い、災害や損害が生じた際の損失を共済金で補てんする制度です。
対象は、牡蠣などの**海面養殖の資源(例えば貝・魚など)**です。
補償の対象
養殖共済がカバーするのは次のような損害です:
養殖生物の死亡・流失による損害
被害が発生した場合、その損害について一定の割合で共済金が支払われます。
つまり、養殖中の牡蠣が大量死したり、台風などで流失したりした場合にも適用対象になります。
しかし、この共済で、被害の全額を補償してくれる訳ではありませんし、未加入の業者も存在します。
「俺たちに死ねと言うのか」という言葉の重さ
現場では、おそらくこんな言葉が投げかけられているはずです。
「この支援策で、本当に助かると思っているのか」
「俺たちに、死ねと言うのか」
これは比喩ではありません。
- 売上の半分以上が赤字になる
- 借金をしても返済の目処が立たない
- 家族の生活がかかっている
そうした状況で出てくる、生きるか死ぬかの言葉です。
人間は、切羽詰まれば関係者に遠慮なく悲痛な心の声を投げ付けます。
指先、足先がしびれ、呼吸が浅くなり、睡眠も浅く、早朝覚醒するようになり、まともに仕事が出来なくなります。このような状態に追い込まれたら、事業の再建などとても出来ません。
苦しんでいるのは、業者だけではない
そして忘れてはならないのが、
その言葉を真正面から受け止めている県職員も、また苦しんでいる
という事実です。
- 現場の深刻さは分かっている
- この支援では足りないことも分かっている
- しかし、政策として反映できない
この状態は、
- 職員個人の能力の問題ではありません
- 現場の努力不足でもありません
意思決定の構造の問題です。
職員や業者さんの心が壊れてしまっても不思議ではない
このような状況が続けば、
- うつ病を発症する職員や業者
- 心身を病む職員
- 最悪の場合、自ら命を絶ってしまう人
が出ても、決して不思議ではありません。
それは個人の弱さではなく、
「声を上げても変わらない組織」に置かれ続けた結果
です。
「誰も自殺に追い込まれることのない兵庫」との矛盾
斎藤知事は、これまで
「誰も自殺に追い込まれることのない兵庫」の実現をめざす
と語ってきました。
その理念自体を否定する人はいないでしょう。
しかし、今回の状況を見ると、
こう問わざるを得ません。
- 現場の悲鳴を受け止める職員は守られているのか
- 「分かっているのに何もできない」状態に追い込まれていないか
- 理念と現実が、乖離していないか
現場の苦しみを想像して、痛みを感じて政策に生かすことが出来ない知事に県民の命を預けることが出来るのでしょうか?
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf09/documents/tyuukanminaoshi_1.pdf
まとめ
- 兵庫県は、融資条件緩和という「延命策」
- 広島県は、再生産を可能にする「直接支援」
- 兵庫は「赤字は自力で返す前提」
- 広島は「赤字は来期で回収できるよう支える前提」
- その差は、倒産を防げるかどうかに直結する
今回の対応の違いは、どの県政が「産業を守る意思」を持っているのかを、はっきり示しています。
斎藤知事は、自分が興味のある産業は支えるが、関心の無い産業は切り捨てると評価されても仕方のない状況になっています。






