「中間見直し」と言いながら、実績を考慮しないKPIの異常性― 兵庫県観光戦略に欠けている“経営者の計算” ―

兵庫県が公表した「ひょうご新観光戦略の中間見直し(後期重点取組)」では、2027年の観光消費額KPIが 14,500億円 と示されている。

しかし、この数値は

  • 当初計画と全く同じKPIが置かれている
  • 2019年基準
  • 2024年の実績値
  • 外国人宿泊者数・単価の伸び
    と照らして見ても、どう考えても説明がつかない

結論から言えば、直近の実績値をほとんど考慮しないまま、当初設定のKPIを据え置いているように見え、事業計画としても、行政経営としても極めて不自然な内容です。

本稿では、「なぜ県民が違和感を覚えるのか」「何が“異常”なのか」を、誰でも追える計算行政トップの責任という観点から整理する。

当初計画

見直し案

県民が確認できるのは「表に出ている数字」だけ

まず前提として重要なのは、県民や記者が検証できるのは、資料に明示されたKPIの数値だけという点である。

  • 観光消費額
  • 延べ宿泊者数(国内・外国人)
  • 観光消費単価

これら以外の

  • 日帰り消費の内訳
  • 買物・交通・飲食の想定
  • 費目別の減少シナリオ

は一切示されていない。

したがって、

「実は他の要因で減る想定がある」

と言われても、県民側から検証する術はない

この状況で、「KPIは妥当だ」「質問が悪い」という擁護が成立しない理由は、ここにある。

2019年基準で見た場合、本来の2027年観光消費額はどうなるか

資料に記載された目標値を素直に積み上げると、次のようになる。

外国人観光消費(2019 → 2027)

  • 単価上昇分
     137万人 × 30,107円 ≒ 412億円
  • 宿泊者数増分
     163万人 × 60,000円 ≒ 978億円

👉 合計 約1,390億円増

国内宿泊観光消費(2019 → 2027)

  • 単価上昇分
     1,305万人 × 9,117円 ≒ 1,190億円
  • 宿泊者数増分
     195万人 × 64,000円 ≒ 1,248億円

👉 合計 約2,438億円増

合計増加分

約3,828億円

2019年の観光消費額 12,312億円 に足すと、
👉 約16,140億円

14,500億円どころか、1.6兆円規模になる計算だ。

2021年現状値は、コロナの影響があったので、参考には出来ない。

2024年の実績値を基準にすると、さらに乖離は拡大する

次に、**中間見直し時点で最も重視すべき「2024年実績」**を基準に考える。

外国人観光消費(2024 → 2027)

  • 単価上昇分
     151万人 × 24,793円 ≒ 374億円
  • 宿泊者数増分
     149万人 × 60,000円 ≒ 894億円

👉 合計 約1,268億円増

国内宿泊観光消費(2024 → 2027)

  • 単価上昇分
     1,500万人 × 2,455円 ≒ 368億円

👉 合計 約368億円増

合計増加分

約1,636億円

2024年の実績 15,059億円 に足すと、
👉 約16,700億円

つまり、中間見直しをするなら、下方修正ではなく上方修正が自然なのだ。

それでも14,500億円が出てくる理由は何か

県側から示されていない以上、考えられるのは次のいずれかである。

  1. 日帰り・買物・飲食などが大幅に減る想定
  2. 観光消費額の算定定義が、KPIと大きくズレている
  3. 当初計画の総額KPIを「触らない前提」で中間見直しを行った

しかし、どれも説明されていない

ここで問題なのは、「そういう事情があるかもしれない」ことではない。

県政のトップが、それを説明できないまま発表したこと

である。

「中間見直し」とは何を見直したのか

今回公表された資料は「中間見直し」とされていますが、では具体的に、何が見直されたのでしょうか。

少なくとも、県民や記者が確認できる範囲では、数値目標(KPI)そのものが見直された形跡は見当たりません。

本来「中間見直し」で行うべきこと

通常、行政計画や事業計画の中間見直しでは、

  • 直近実績の分析
  • 当初前提との乖離の確認
  • その乖離を踏まえた数値目標の再設定

が最低限行われます。

特に観光消費額のような1兆円規模の基幹指標であれば、前年実績や最新データを踏まえて目標値を再計算するのが当然です。

今回の資料で実際に起きていること

しかし今回の「中間見直し」では、

  • 2024年の実績値がすでに当初想定を上回っているにもかかわらず
  • 2027年の観光消費額KPIは当初計画の 14,500億円のまま据え置かれている

ように見えます。

集客数の増加、単価の上昇、平均泊数の伸長といった消費額を押し上げる指標は強調されている一方で、その結果としての「総額」が更新されていない。

これは、「見直し」というよりも当初計画の数値を維持したまま、説明の仕方だけを変えたと受け取られても仕方のない構成です。

なぜ違和感が生じるのか

この構成が違和感を生む理由は単純です。

表に示された数字を用いて簡単な積み上げ計算を行えば、2027年の観光消費額は 14,500億円ではなく、より高い水準になるという結果が自然に導かれるからです。

それにもかかわらず、

  • なぜ総額KPIを見直さないのか
  • なぜ実績を反映しないのか
  • なぜその理由が説明されないのか

これらが一切示されていません。

問題は「数字」ではなく「説明」

重要なのは、このKPIが高いか低いかではありません。

中間見直しと称して発表した計画について、何をどう見直したのかをトップが説明できないことここに最大の問題があります。

観光消費額は、兵庫県経済の根幹に関わる指標です。
それを「担当者レベルの話」として処理してしまうなら、県民は行政の意思決定を検証することができません。

中間見直しと呼ぶなら、最低限必要だったこと

少なくとも次の説明は必要だったはずです。

  • 観光消費額KPIは当初計画値を維持する理由
  • 実績上振れをどのように評価しているのか
  • 上振れ分を今後どう扱うのか

これらが示されていない以上、
今回の資料は**「中間見直し」ではなく、後期施策の整理資料**
と評価されてもやむを得ないでしょう。

本当の問題は「計算していない」こと

筆者がここで強く感じるのは、斎藤知事が、これらの基本的な積み上げ計算すらしていないのではないかという疑念である。

ここで示した計算は、

  • 高度な経済分析でも
  • 専門的な統計処理でも

ない。

表に書かれている数字を掛け算し、足し合わせただけだ。

民間企業であれば、

  • 売上目標
  • 投資回収
  • 成長シナリオ

について、経営者がこの程度の計算をしないことは考えられない。

「担当者レベルの話」で済ませていい規模ではない

観光消費額 1兆4,500億円。
これは兵庫県経済の根幹に関わる規模である。

この数字について、

  • なぜ減るのか
  • なぜ据え置いたのか
  • なぜ実績を反映しないのか

を知事が説明できないのであれば、

それは

  • やる気がない
  • 理解していない
  • 組織が「どうせ見ない」と学習している

いずれか、あるいは複合だろう。

おわりに

この問題は、「数字の読み違い」でも「記者の質問の仕方」でもない。

中間見直しを名乗りながら、実績を踏まえた再計算をしていないこと、そして行政の長がそのロジックを説明できないことそのものが問題なのだ。

県民に必要なのは、知事を守る言葉ではない。

県政が、現実の数字を見て判断されているのかどうか

その一点である。