関西学院大学で起きた“知事講義招致問題”の本質― 官僚ネットワークと大学ガバナンスの衝突が生んだ深刻な構造問題
2025年11月、関西学院大学法学部の講義「地域政策論1」に、兵庫県の斎藤元彦知事が“ゲストスピーカー”として招かれた。
しかし、授業実施を前に、**法学部長の伊勢田道仁氏(本物)**がXに極めて異例の内容を投稿し、大きな波紋を呼んでいます。
この記事では、伊勢田氏の投稿 → 背景 → 官僚ネットワーク → 総務省の中立性問題 → 選挙制度の観点からの問題点までを体系的に整理し、この問題の本質を解説します。
目次
伊勢田法学部長の問題提起
伊勢田氏の主張は簡潔に言うと次の3点です。
① 法学部としては“招待の機関決定をしていない”
大学組織として、知事を講師として招いた事実はない。
② 知事を呼んだのは「総務省から来ている任期付き教授」個人の判断
無報酬ゲスト扱いのため、教授会承認・事前届出が不要。
つまり 大学組織ではなく個人の裁量。
③ デモ隊来場の危険性を考慮し“リモート実施”を提案したが、教授に拒絶された
学生・キャンパスの安全を守るための判断だったが、教授側は「従う義務があるのですか」と突き返した。
伊勢田氏は投稿の最後に
「関学が政治利用されるのは不愉快」
と述べ、深刻な危機感を示しました。
知事側の発言との“齟齬”
一方で斎藤知事は記者会見で、次のように述べました。
「関西学院大学のご意向があり、出席依頼を受けた」
この表現は、あたかも大学の公式依頼・正式招待であるかのように聞こえます。
しかし実際は
- 大学の機関決定なし
- 教授個人の招へい
- 大学が招いたように受け取られる表現
というギャップがあり、大学側の不信感を強める結果となりました。
問題の核心:“大学ブランド<官僚ネットワーク” が優先された
知事を呼んだ教授は総務省(国家Ⅰ種)2006年入省 → 2023年から関学法学部に出向中。
そして斎藤知事は、総務省2002年入省(先輩)。
霞ヶ関の文化では、**縦の関係(先輩・後輩)**が極めて強い。
そのため今回の講義招致は
大学の教育的妥当性でもなく、大学ブランドでもなく、
官僚コミュニティの「義理」で決まった可能性が極めて高い。
伊勢田法学部長が不快感を示したのは、まさに大学ガバナンスの上を“霞ヶ関人脈”が通り越した構図です。
さらに重大な事実:担当教授は「兵庫県明るい選挙推進協議会」の委員
ここから話は一気に深刻になります。
明るい選挙推進協議会は
- 選挙の公正
- 政治的中立
- 有権者教育
を推進する組織であり、総務省・選挙管理委員会と密接に連携する立場です。
しかし担当教授は、
- 現役の総務官僚(本籍=総務省)
- 明るい選挙推進協議会委員
- 出向中の大学教授
という3つの立場を同時に持ち、その人物が選挙で選ばれる現職知事を大学講義に呼んだ。
これは制度的に非常に問題のある構図です。
総務省の立場から見ても危険性が高い理由
総務省は“選挙制度の公平性”を担う省庁です。
その現役キャリアが、
- 先輩政治家(現職知事)に
- 大学というブランドの場を提供し
- 若年層(有権者)に直接影響を与えうる講義を
- 個人判断で実施し
- 実質的な“政治的宣伝効果”が生まれる可能性を作る
これは
❌ 総務省の選挙中立義務
❌ 明るい選挙推進協議会の倫理
❌ 大学政治活動の中立性
のいずれから見ても、極めてまずい行為です。
大学側が最も恐れた「政治利用」と「キャンパスの混乱」
今回、大学が最も恐れたのは
- デモ隊の来場
- 学生の危険
- キャンパスの施設破損
- 大学ブランドの毀損
- 「関学が知事を支持している」との誤解
つまり
大学全体が政治トラブルに巻き込まれること
でした。
それにも関わらず、総務省出向の教授は大学指導を拒否。
ここに、大学と官僚社会の価値観の完全な衝突が表れています。
この問題の本質(まとめ)
本件は単なる「講義に知事を呼んだ」という話ではありません。
【本質はこれ】
① 大学としては正式に招いていない
② 総務省キャリアの後輩教授が“身内ネットワーク”で知事を呼んだ
③ 現職知事を呼ぶことは選挙的な政治的効果を持つ
④ 担当教授は「選挙の中立性を守る立場」の明推協委員
⑤ 総務省の中立義務に反する可能性
⑥ 大学ガバナンスが置き去りにされ、法学部長が異例の抗議
大学・総務省・知事側の“利害のズレ”が生んだ構造的問題
今回の問題は、次のような利害のズレが生み出した構造的事故です。
- 大学:政治利用されたくない/安全確保したい
- 担当教授:官僚ネットワークで先輩を呼びたい
- 知事:大学公式の招待のように見せたい
- 総務省:本来は中立義務違反の疑いがある行動
- 学生:政治トラブルに巻き込まれたくない
この構図が最悪の形でぶつかった結果、今回の問題が表面化しました。
おわりに
伊勢田法学部長がXで「大学が招いたわけではない」と明言したのは、大学として 政治的中立性とブランドを守るための最終手段 でした。
本件は、
- 大学ガバナンス
- 官僚組織と出向文化
- 政治的中立義務
- 公共機関の公平性
- 若者教育の中立性
など、多くのテーマが交錯する極めて重要な事例です。
今後、総務省側がどのような姿勢を示すのか。
大学側がどこまでガバナンスを立て直せるか。
注視する必要があります。






