「牡蠣応援プロジェクト」の本質的な問題点― 緊急時対応と平時施策を混同した兵庫県の政策判断 ―

「牡蠣応援」と言いながら、寄付金の使途は観光施策中心

斎藤知事の説明によれば、「牡蠣応援プロジェクト」で集めた寄付金は、

  • フィールドパビリオンの磨き上げ
  • プレーヤー向けブラッシュアップセミナー
  • 専門家コンサル、現地撮影
  • 旅行会社向けモニターツアー

など、観光コンテンツ造成・誘客基盤の強化に使われるとされています。

しかし、ここで語られている内容は、

  • 養殖施設の復旧
  • 収入激減に対する直接補填
  • 廃業を防ぐための当座資金支援

といった牡蠣業者への直接的な支援ではありません

「牡蠣応援」という名称から多くの県民・寄付者が想像する支援内容と、実際の使途との間には、明確なズレがあります。

https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk16/r7kakiouennpjkifu.html

今は「平時」ではなく「緊急事態」

知事自身が会見で、

  • 例年よりもかなり深刻
  • 現地視察をして厳しい状況だと受け止めている
  • 8~9割が死滅する異常事態

という認識を示しています。

この状況は、「ブランド力向上」や「誘客基盤づくり」を優先するフェーズではありません。

平時であれば、

  • 観光誘客 → 需要喚起 → 単価アップ → ブランド力向上

というロジックは成立します。
しかし今回は、

  • 売るべき牡蠣そのものが存在しない
  • 生産者が事業継続の瀬戸際に立たされている

という災害に近い局面です。

この局面で「観光にお金を回す」判断は、政策の優先順位を取り違えていると言わざるを得ません。

「支援を求めているのに、観光に使われる」現場の受け止め

牡蠣業者の立場から見れば、

  • 不漁で収入が激減
  • 先行きが見えない
  • 廃業の不安が現実的

という中で、

「牡蠣応援プロジェクトを立ち上げました」

と聞けば、当然「自分たちを直接支えてくれるのだ」と期待するでしょう。

しかし実態は、

  • 寄付金は観光施策へ
  • 直接支援は補正予算の範囲内のみ

この構図は、現場からすれば「支援を要請しているのに、なぜ観光なのか」という不信感につながりかねません。

現地視察をしても「現場の苦しみ」が政策に反映されていない

斎藤知事は現地視察を行ったとしていますが、

  • 危機の深刻さ
  • 生産者の心理的・経済的追い詰められ方

が、政策の優先順位として反映されているとは言い難い内容です。

現場を見たにもかかわらず、

  • 「まず守るべきは生産者」
  • 「次に観光やブランド回復」

という順番になっていない点に、知事の現場理解の浅さ、もしくは因果関係の理解不足が表れているように見えます。

本来あるべき「牡蠣応援」の姿

本当に「牡蠣応援」と言うのであれば、

  1. 寄付金の一定割合を牡蠣業者への直接支援に充てる
  2. 緊急支援と観光施策を明確に分けて説明する
  3. 「まず生産を守る」という明確なメッセージを出す

この最低限の整理が必要です。

今の説明では、

  • 県民
  • 寄付者
  • 牡蠣業者

いずれに対しても、誤解と不信を生む設計になっています。

「今シーズン誘客」を指している

問題の投稿は、

「牡蠣不漁に直面する西播磨地域への観光誘客を応援します。」

というものです。

ここで重要なのは、

  • 「この時期の西播磨は」
  • 「牡蠣によって誘客を図っている」
  • 「誘客の側面でもしっかり取り組んでいく」

という現在進行形の表現が使われている点です。

もし「来季以降」や「回復後」を指すのであれば、

  • 「将来に向けて」
  • 「来シーズン以降」
  • 「回復後を見据えて」

といった言い回しになるのが通常です。

したがって、この発言は今シーズンも、牡蠣を軸に誘客を続けるという認識で受け取られても不自然ではありません。

牡蠣が「無い」状態での誘客は、観光として逆効果

こが致命的な問題点です。

西播磨の冬の観光において「牡蠣」は、

  • 主目的(来訪理由)
  • 体験価値の中核
  • 期待値の源泉

です。

その牡蠣が、

  • 不漁でほとんど出回らない
  • 提供できても量・品質に限界がある

という状況で誘客を行えば、

  • 「牡蠣を楽しみに来たのに食べられなかった」
  • 「思っていた内容と違った」
  • 「誇大なPRではないか」

という失望体験が発生します。

観光において最も避けるべきなのは期待値を上げて、満たせないことです。

これは短期的な集客以前に、中長期的なブランド価値の毀損につながります。

「応援消費」と「商品提供不能」は両立しない

行政側は恐らく、

  • 「今は応援の気持ちで来てもらう」
  • 「牡蠣が少なくても地域を応援してほしい」

という情緒的ロジックを想定している可能性があります。

しかし現実には、

  • 旅行は安くない
  • 期待と対価のバランスが重視される
  • 「応援」のために行く人は少数派

です。

しかも、

  • 応援と言いながら主役の牡蠣が無い
  • 実際に食べられない

となれば、
「応援消費」どころか不満と悪評が拡散されるリスクの方が高い。

これは観光政策としても「因果関係の誤認」

本来の因果関係は、

  1. 生産が回復する
  2. 安定供給できる
  3. 体験価値が担保される
  4. 誘客・ブランド回復につながる

です。

ところが今回の発言は、

  • 生産が崩壊状態
  • 供給が不安定
  • それでも誘客

という因果関係が逆転した施策です。

これは牡蠣業者だけでなく、

  • 観光事業者
  • 飲食店
  • 宿泊業

にもリスクを押し付ける構図になります。

まとめ

「牡蠣応援プロジェクト」は名前こそ前向きですが、その中身は 緊急時対応と平時の観光施策を混同した、ちぐはぐな政策です。

8~9割が死滅する異常事態において、「牡蠣を応援する」と言いながら、牡蠣業者ではなく観光コンテンツに寄付金を使う。

この判断は、現場の苦しみを理解しているとは言い難く、県政の危機対応能力そのものが問われる事例だと言えるでしょう。