「マッチ屋への嫌がらせ」は本当だったのか―実在店舗を巻き込む“虚偽炎上”の危険性について
SNS上では、政治的対立が激しくなるたびに、無関係な個人や店舗が話題に巻き込まれるケースが後を絶ちません。
今回も、「兵庫県内のマッチ専門店が嫌がらせを受けている」という投稿が拡散されました。
しかし、本当にそのような事実は起きているのでしょうか。
本記事では、感情論や立場論から距離を置き、確認できる事実に基づいて整理します。
目次
発端:知事のX投稿と店舗紹介
斎藤県知事は、県の施策や議会対応について触れた投稿の中で、以下を紹介しました。
- 県産マッチを返礼品とする「ふるさと納税」
- 業界団体の直営店「マッチ専門店 マッチ棒」
- ※返礼品のセットは店舗では販売していないことも明記
この投稿自体は、内容として特段異例なものではありません。
今日は一般質問二日目でした。若者支援施策、農業や農村振興、豊かな海づくりなど、引き続き活発な政策議論を交わしました。昨日ご紹介した県ふるさと納税の新返礼品『県産マッチセット』には、多くの方々からご好評をいただいております。心より感謝申し上げます。県庁近くの燐寸工業会直営店『マッチ… https://t.co/XhrMO5gkxM pic.twitter.com/aVVE1p2a8Z
— 兵庫県知事 さいとう元彦 (@motohikosaitoH) December 9, 2025
拡散された「嫌がらせ被害」の主張
その後、SNS上で次のような投稿が広がりました。
- Googleマップで★1レビューが大量に投稿された
- 店舗前の写真が晒されている
- 無言電話や悪戯注文が相次いでいる
- 「リアル凸」を示唆する危険な書き込みがある
これらを総合し、「ネット上の対立が実店舗への嫌がらせに発展している」とする論調が形成されました。
あらんのデマポストはこちら pic.twitter.com/V5n7775qXK
— 中道一政(3) (@kznakamichi3) December 14, 2025
実際に確認できた事実
しかし、実際に確認すると、次の点が明らかです。
● Googleマップの口コミ
- ★1レビューの急増は確認できません
- 直近で★1評価が連続投稿された形跡もありません
- 全体評価は安定しており、荒らしの痕跡は見当たりません
「レビュー荒らしが起きている」という主張を裏付ける客観的事実は確認できませんでした。
「ご来店の際は事前にご連絡ください」 「臨時休業する場合がございます」 という注意書きをサイトに追加し始めました。
との投稿も記載されていましたが、店舗のサイトのお知らせは「2024.06.17」が最後でした。
「★1レビュー急増」という表現が持つ印象操作性
今回、「★1レビューが急増した」とする投稿には、単なる事実誤認以上の印象操作の意図が含まれている可能性があります。
「★1レビューが急増した」という表現は、読む側に次のような連想を自然に起こさせます。
- 誰かが意図的に店を攻撃している
- 政治的反対派が集団で嫌がらせをしている
- 特定の陣営が“危険な存在”である
しかし、実際には、Googleマップ上でそのようなレビューの急増は確認できません。
つまり、
存在しない行為を、あたかも現実に起きているかのように描写することで、
特定の人々に「攻撃的で悪質」というイメージを植え付ける
という効果を持つ表現だったと言えます。
誰が得をする構図なのか
この構図で得をするのは、
- 「自分たちは被害者だ」と位置づけたい側
- 対立相手を過激で危険な存在として描きたい側
です。
一方で、最も損をするのは、
- 政治的立場を表明していない実店舗
- 事実を知らないまま情報に触れる一般の人々
です。
問題は「立場」ではなく「虚偽の前提」
重要なのは、「誰が支持者か」「どの陣営か」ではありません。
問題なのは、
事実ではない前提を使って、
他者を攻撃的に見せかける情報が拡散されたこと
その一点です。
このような情報操作が横行すれば、本来冷静であるはずの議論空間そのものが壊れてしまいます。
印象操作は、最終的に社会全体を傷つける
実在する店舗を巻き込み、「誰かが攻撃している」という物語を作り出す行為は、結果として 実害を生みかねない危険な行為です。
政治的意見の違いがあったとしても、事実でない情報を使って相手を貶めることは、決して正当化されるものではありません。
ここで問われるべき本当の問題
この件で重要なのは、
実店舗が嫌がらせを受けたかどうか
ではなく
嫌がらせが起きているかのような情報が拡散されたこと
です。
事実でない情報であっても、
- 「危険な店」
- 「炎上している店」
- 「近づくべきでない場所」
という印象が作られれば、店舗に実害が発生する可能性があります。
実在店舗を“炎上の道具”にする危険性
特に問題なのは、
- 店舗が政治的主張をしていない
- 特定の立場表明をしていない
- 日常的に営業している小規模事業者である
にもかかわらず、政治的対立の文脈で名前が拡散されることです。
これは、
- 名誉や信用の毀損
- 営業妨害
- 不安や恐怖の助長
につながりかねません。
「事実確認なき善意」が最も危険
拡散した側に悪意があったかどうかは分かりません。
しかし、
- 確認できない被害情報
- 「危ないらしい」「ひどいらしい」という伝聞
- 感情を煽る表現
が積み重なれば、結果的に実在の店舗を傷つけることになります。
政治的立場に関係なく、これは誰にとっても望ましくない状況です。
おわりに
今回の件は、「嫌がらせがあったかどうか」以前に、
事実でない話が、事実のように広がること自体が最大のリスク
であることを示しています。
政治的意見の違いはあっても、無関係な民間店舗を炎上の文脈に巻き込むべきではありません。
私たち一人ひとりが、拡散する前に事実を確認する。その姿勢を持つことが、社会全体の安全につながるはずです。






